2019年11月23日土曜日

Seppioline Grigliate 新いかのグリル

小さくて丸くぷっくりした姿が愛くるしい甲いかの赤ちゃん=新いかをしっとりマリネしてグリルでさっと炙り、レモンを搾りかけていただくシンプルおつまみ。
旬のピークは過ぎ今年はこれが最終便、招かれざる冬が来る前の献立は季節を先取りしたりせず秋の名残りの素材を味わいつくします。

朝晩の冷え込みが一段と厳しくなってきて、そろそろ冬も近いと感じる時期になってきました。
街をゆく人々はダークカラーのコートやマフラーに身を包み、街路樹は枯れ葉色に染まった葉を少しづつ落とし、収穫を終えた郊外の田畑では土が露出して初霜が降り、そこに乾いた北風が吹けば人や街から潤いを根こそぎ奪っていきます。
街全体を殺風景なセピア色やモノトーンカラーが包む晩秋。
陽から隠へと向かうこの時期は、なんていうか絶望感や無力感のようなものが漂い、何事もやる気が起きないとか、人によってはどんよりして鬱になったりしがちな季節。
ハロウィーンが終わるとクリスマスまで一月半はとくにイベントらしいイベントもないためなおさらですね。

和食の世界では、そんな晩秋の献立は招かれざる冬を先取りしたりせず秋の名残りの素材で構成するのが良しとされています。
長く凍てつく冬のあとの春やバカンスシーズンの夏、食べ物が美味しい秋は待ち遠しい季節ですが、冬だけは話が別というわけですね。
野菜でいえば大根や蕪、白菜など、魚介でいえば鯛や平目、牡蠣、鱈、寒鰤、蟹などが冬のものにあたります。
市場で早い時期から出回っていたとしても、冬のものというのは本来は寒さがもっと厳しくなってからの方がぐんと味が良くなってきますし、これから長い期間、否が応でも冬の寒さとつきあっていくわけなので、冬の味覚を急いで味わう必要なんてないってことです。

さて、名残りの食材といっても秋は美味しいものが盛り沢山で選択肢も尽きないですよね。
でも、逆にいろいろあり過ぎて食べきれないので、今年はまだ味わってない、それ忘れてたぁ的なマイナーなものも埋もれていたりします。
そんななかから、今日は知る人ぞ知るちょっと通好みの新いかです。
新いかとは、イカスミでおなじみの甲イカの赤ちゃんのこと。
夏の終わり=立秋を過ぎた頃から出始めますので、旬のピークは過ぎてこれが秋の最終便(撮影は10月)です。

冬が旬のヤリイカの稚イカも同じ時期に揚がりますが、意味合い的にはどちらもその年に生まれた新イカではあるけど、新いかと呼ばれるのはこの甲イカの赤ちゃんの方なんですね。
姿形はまん丸で、イカらしい細長い体型には程遠いのですが、イカ類は細長い筒型のツツイカと、胴体に甲羅のような骨を持ったずんぐりした体型のコウイカの大きく二種類がいて、名前の通り甲イカは後者。
成長するともう少し端正なスタイルになりますが、赤ちゃんというのは仔犬や仔猫もそうですが胴が詰まって丸々として愛くるしいものの。
そこは人間も含めすべての動物に共通しますよね。

新いかは江戸前寿司を代表する通好みのネタのひとつ。
夏の初めにコハダの幼魚である新子が出回り、夏も終わりを告げる頃に新イカが出始めます。
どちらも一瞬の旬を味わうものだけに値段は非常に高価。
とりわけ出始めの頃は驚くほど高く、お客に出してもとんとんか赤字で振る舞っているようなものなんですが、そこは親方の懐の深さというか江戸っ子らしい粋というもの。
新子などはシャリを包むようにして、何枚もつけてあるのを見たことがあるかと思いますが、たくさんつければいいってものじゃないですが、原価を度外視した親方の心意気なのでありがたく頂いてください。

甲イカはイタリア語でセッピア(セピア色の語源)で、赤ちゃんの方はセッピオリーネ。
あちらでも季節の一瞬を愛でるお楽しみの食材として定番です。
オリーブオイルでソテーしたり、グリーンピースと一緒に煮込んだり、香草パン粉焼き、フリット、グリルなどで食べられます。
小さいので二杯か三杯まとめて串に挿せばスピエディーニ、小さいけど中に詰め物をしたリピエーニなども。
タコもそうですが、甲殻類というのは、にんにくとオリーブオイルとの相性がとにかく抜群で、あまり凝った料理だと持ち味が半減します。
今日は、下味をつけてオリーブオイルでマリネしてからグリルでさっと炙り、レモンを搾りかけただけのシンプルな一皿。

深まる秋の休日には、やがて訪れる長くて厳しい季節のことなどしばし忘れ、過ぎゆく美しい季節を回想したり名残りを惜しんだりしながら、こんなのをつまみにワインを飲んで過ごすのもいいもんですよ。

Ingredienti (per 2 persone)

新イカ200g
にんにく1片
オリーブオイル適量
白ワイン適量
適量
黒胡椒適量
レモン1/4個
プレッツエーモロ5枝

※分量は一応の目安なので味見しながら作ってください

Preparazione

新イカの捌き方は大人の甲イカと同じです。
胴体の色が黒褐色をしている側のすぐ下に甲羅があるので、縦に包丁で切れ目を入れて開き、甲羅を取り出します。
甲羅の下に内臓があるので、奥の方にあるスミ袋を破かないように注意しながら引っぱり出します。
脚は内臓と一緒にとれてしまいやすいので、なるべく胴体にくっつけたままにして、胴体の薄皮を剥き目とクチバシを取り除きます。

捌いたイカは白ワインですすぐように洗って水気を拭きとり、塩胡椒で軽く下味をつけます。
スライスしたにんにくを散らし、オリーブオイルをまわしかけ冷蔵庫でしばらくマリネします。

ガスコンロの魚グリルなどを予熱し、イカを並べてさっと炙ります。
半生ぐらいの焼き加減で平皿にとり、黒胡椒を軽く挽き、櫛切りにしたレモンを添え、プレッツェーモロ(イタリアンパセリ)の粗みじん切りを散らせば出来上がり。

関連記事 - 季節の魚介の前菜料理

Capesante in Insalata con Pomodoro e Basilico
フルーツトマトと帆立貝のサラダ仕立て
Ventosa di Piovra Cruda
水蛸の吸盤のクルード
Carpaccio di Orata con Corona di Erbe e Fiori
天然真鯛のカルパッチョ 三種のハーブとともに
Tartare di Gamberi Rosa e Fragole
甘海老と苺のタルタル仕立て


0 件のコメント:

コメントを投稿