2018年11月10日土曜日

Orata Cruda con Salsa Verde 黒鯥のクルード 松皮造り サルサヴェルデ添え

半身におろしたクロムツの皮目を湯引きして氷水で締め、刺身に引いてバジリコとパセリのソースをあしらった黒鯥のクルード。
黒ムツは晩秋から冬にかけて旬を迎える高級魚、味は鯛に似ていますが淡白なのに脂が乗ってむっちりした食味は鯛をも凌ぎます。

クロムツという魚をご存知でしょうか。
スーパーではあまり見かけないかもしれませんが、これから冬にかけて料亭や寿司店、レストランでお品書きに登場する高級魚です。
ムツ(鯥)と呼ばれる魚は主にムツ、クロムツ、アカムツの三種類で、このうちムツと黒ムツはスズキ目ムツ科で同じ仲間ですが、アカムツはスズキ目ホタルジャコ科で分類上はムツとは別の魚になります。
アカムツは実はノドグロという別名があり、そちらの方が知名度が高いかもしれません。
富山など北陸や山陰で揚がる高級魚として知られていますよね。
アカムツの外見はよくいる根魚のような感じでメバルにやや似ていて、魚としてはわりと普通っぽい容姿をしています。
一方、ムツとクロムツは近似種で以前は分類上も同種だとされ区別していなかったぐらい外見はよく似ていますが、その容姿はというと、目はぎょろりと大きくて鋭い歯を持ち、どす黒く見栄えのしない、いかにも深海魚といった迫力ある風貌をしています。
また、水圧が高くて冷たい深海で暮らすせいか、皮下脂肪をたっぷりとつけていて白身魚なのに脂がよく乗っています。

ぷるんとして脂の乗った白身は深海魚の特徴のひとつ。
かつて銀ムツと呼ばれていたメロという深海魚も白身なのにとろとろに脂が乗っていて、煮付けや照焼きなどで美味。
ムツの仲間ではないため現在は銀ムツと呼称することができなくなっていますが、銀ムツの方が明らかに美味しそうじゃないですか。
メロなんて残念な名前じゃちょっと食欲がそそられませんよね。笑
西京漬けでおなじみの銀ダラという魚も同じく深海魚。
こちらもタラの仲間ではないのですが、分類上はカサゴ目ギンダラ科=つまり銀ダラという呼称が公称になってしまっているため今も銀ダラで通用しています。
味は銀ムツとよく似ています。
ほかにも、いわゆる白身魚のフライも白身なのにしっとりと脂が乗って美味しいですが、主な原料はメルルーサという深海魚です。

ムツの話に戻りますが、容姿がグロテスクなわりに値段が高く、とくにクロムツは市場でもかなり高値をつける高級魚です。
以前は煮付けで旨い魚という評価で、加熱しても硬くなったり縮んだりしないし、煮崩れしにくく煮汁もよくしみるという、まさに煮付けにはうってつけの魚だったんです。
しかし昨今の高騰ぶりで今は刺身で出される方が主流となりました。
クロムツの刺身はくせがなくて淡白で甘みがあり、他の魚に例えるなら鯛に似ています。
淡くピンク色がかった白身にはしっとりと脂がさして実に美味。
大きいものだと値が張りますが、小さいものでも脂がよく乗ってるので刺身にできますし、小型のクロムツは皮が薄くて軟らかく皮目に旨みもあるので、鯛のように皮目を湯引きした松皮造りがお勧めです。

さて、クロムツは地中海には生息していませんが、鯛の刺身に似ているのでイタリア語の表題をオラータ(鯛)のクルードとしてみました。
もちろん正しく表記するなら固有名詞の"Kuromutsu"。
でもそれだと何の料理なのかわかりませんよね。
クルードなので生のまま火を通さない料理ということはわかりますが、それが肉なのか魚なのか野菜なのかすらわかりません。
でも "Orata Cruda con Salsa Verde" ならイメージできます。
食味も鯛に似ているのでイメージと味のギャップもないでしょう。
実際のお店でやったら不当表示にあたるかもですが(そもそも鯛よりもクロムツの方が高いので微妙ですが)高級店ほどメニューは文字ばかりで写真とかないですからねぇ。

このブログでは、例えば地中海にいないブリは "Ricciola"=カンパチと表記したり、ホタルイカの場合は "Calamaretti"=小さいイカ、稚鮎は "Avannotti di Trota"=鱒の稚魚、飯蛸は "Moscardini"=ジャコウダコといった具合でイタリア語の表題をつけてきました。
イタリアにない食材を使うとネーミングで苦労しますが笑、客の立場で料理のイメージが膨らむ名前を考えるのも楽しいですよ。

Ingredienti (per 2 persone)

クロムツ半身
レモン1/4個
岩塩適量
黒胡椒適量
per la Salsa Verde
バジリコ1枝
プレッツェーモロ5枝
塩蔵ケイパー3粒
にんにく1/4片
松の実ひとつまみ
ひとつまみ
オリーブオイル適量

※分量は一応の目安なので味見しながら作ってください

Preparazione

まず、サルサヴェルデを作ります。
上記レシピの分量で作ってももちろんいいですが、季節的にバジリコの生葉がない時期なので作り置きのペストジェノベーゼがあればパセリとケイパーを加えてリメイクするのが楽です。

塩蔵ケイパーはぬるま湯にひたして塩抜きしてから包丁で細かく刻み、プレッツェーモロ(イタリアンパセリ)の葉をすり鉢ですり潰してからペストと合わせ、オリーブオイルで緩くのばします。
このソースにチーズは加えませんので念のため。

クロムツは鱗と内臓を取り除いて三枚におろします。
半身の皮目を上に向けて水切りバットに乗せ、軽く塩をふってキッチンペーパーを被せ、その上から熱湯をまわしかけます。
ちりちりと皮目が縮んで反り返りはじめますので、あらかじめ用意しておいた氷水に手早くとります。
十分に冷めたらキッチンペーパーで水気をふきとり、やや斜めの刺身に引いていきます。

平皿にクロムツの刺身を並べ、岩塩と黒胡椒を挽きかけます。
サルサヴェルデをスプーンで刺身の上に直線的にたらしかけ、皿の余白部分にも添えます。
食べる直前にレモンを搾っていただきます。

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